King Gnu の The hole のPVを見て

King Gnu の The hole という曲のPVを見て、これはどういうことなんだろう、と考えてみた。

 

 

 

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 男同士のキスから始まるストーリーで、お互い顔が見えない状態の写真を撮るシーンから始まる。

 

 女性が「誰かを想ったりする」様子で座っている。カフェに移動し、主人公を見つけ、目をうるませる。ところが別の男性の邪魔が入り、見つめていた男を探すが姿が見当たらなくなったことがわかる。直後に深夜のタクシーの映像。またカフェのシーンに戻り、パスタを出す男性にくぎ付けになる女性。

 

 夜、目に「ぽっかりと空いたその穴」である痣をつけ泣く女性と、それを「僕に隠さないで見せておくれよ」と抱きしめる男性。ここから二人が恋人になったこと、そして女性は主人公からDVの被害を受けていることがわかる。朝になると「そっと包みこむように」男性が女性を抱きしめ、女性の左薬指あたりを触って(おそらく結婚を匂わせて)いる。

 

 サビが終わらない段階(「ぼくが傷口になるよ」)、つまり先ほどの女性の恋人との文脈が終わらないうちに、主人公は再び片耳イヤホンの状態でスマホに入った連絡を見る(サビが終わらないうちに、女性の恋人から男性の恋人の部屋に移動することから、区切りの悪さを伴った関係が描かれている。また、片方だけのイヤホンで、耳という「ぽっかりと空いた」穴を完全に塞げていないし、完全に見せてもいないという状態が、主人公のどちらの愛にも深入りできない状態を表わしている)。連絡を受け、すぐさま自転車を走らせ恋人の男性の部屋へ行き、一夜をすごす。二人で迎える朝、主人公は朝食を、恋人はたばこを吸っている。主人公のスマホに(おそらく女性の恋人から)連絡がある。男性の恋人はそれをずっと見ているが、主人公が気まずそうに目線を送ってきたため、顔をそらす。

 

 シーンが変わり、主人公と女性の恋人が楽しそうに海で遊んでいる(歌詞では「逃げ出せばいいよ。全て放り出せばいいよ。ささいな拍子に壊れてしまう前に」と流れているので、この楽しさの背後にある暗い影が表現されている)。しかし、帰り道では二人は不穏な雰囲気になっている。「愛を守らなくちゃ、あなたを守らなくちゃ」とお互い我慢しているが、結局、車を停めてケンカを始めてしまう。「ぽっかりと空いたその穴」を主人公が女性を抱きしめるという(一度目のサビの時と同じ)仲直りの仕方をする。女性は決して手に収めることができない太陽を掴もうと手を伸ばす。

 

 サビの「ぼくが傷口になるよ」という部分、つまり先ほどの女性の恋人との文脈が終わらないうちにシーンが変わり、主人公は恋人の男性の部屋でニューヨーク行きの飛行機のチケットを見つける。

 

 シーンが変わり、主人公は職場で片方だけイヤホンをして掃除をしている。そこにキャリーバックを持った男性の恋人がやってきて、主人公に突然キスをする。そして冒頭にあったように、カメラを取り出し「愛を守らなくちゃ」と二人とも顔がうつらないように写真をとる。そして「あなたを守らなくちゃ」と二人は離れ、(おそらく、じゃあ、の言葉だけを残して)去る。ここで、方耳をふさいでいたイヤホンが外れた状態になっているのがアップになり、(シーンが変わって)主人公はシャワーに打たれ、崩れ落ちている。その時、おそらく恋人の女性からかかっていた着信が切れる(待ち受けは白日のジャケット)。

 

 しばらく経って女性のところに行くと、女性は部屋を荒らしており、手にははさみを握った状態でこちら見て、すぐさま襲い掛かってくる。主人公は枕を盾にはさみを受けたので、辺りが羽毛でぐちゃぐちゃになる。疲れ切った女性は外へ走り去る。それを追って男性は街を探し回る。(このとき「飛沫をあげて」の歌詞のドラム音と主人公の歩幅が一致しているので、直後のドラム音のダダダンという部分で主人公に何かがあったことがわかる。それに合わせて)女性が振り返ると、車が横転しており、裸足の恋人が近づいていくと主人公が車にひかれて意識を失っているのを見つける。

 

 二人のキスシーン、一人で言葉を飲み込む女性のシーン、きれいな二人の部屋のシーンで終わる。

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・謎の冒頭のシーン

 冒頭のシーンは後から出てくることから、時系列がずれていることがわかる。では、どこがこのストーリーの時間軸で最初なのか。それは女性がカフェで主人公を見つけ驚き、探すけど見つからず、直後に夜のタクシーのシーンに移るタイミングだ。初見ではなんで夜のタクシーなのかわからなかったのだけど、ここで時系列が変わると思えば納得がいく。つまり、冒頭の女性のシーンは主人公が死んでしまった後(PVの最後の続き)なんだろう。だから「誰か(=死んだ主人公)を想ったりする」様子で座っているし、カフェで主人公を見つけた時、いるはずのない主人公の登場に驚くし、すぐに消えてしまう(単なる見間違い)。夜のタクシーでは出会った頃のことを思い出しているのだろう。直後に(思い出された過去の、主人公に初めて出会った)カフェでのパスタのシーンへと移る。このシーンがこの物語のスタート地点ということ。

 

 

・男性の恋人との関係

 二人で迎える朝、主人公は朝食を、恋人はたばこを吸っていた。このバラバラの関係は、二人が違う方向を向いていること意味している。主人公の男性のスマホに(おそらく女性から)連絡があり、気まずそうに恋人を見る。それを見て、恋人は顔をそらす。ここからも二人のすれ違いが表現されている。飛行機のチケットに関しても、主人公は問い詰めたりせず、破局まで穴に蓋をしている。カメラを取り出し「愛を守らなくちゃ」と二人とも顔がうつらないように写真をとる。そして「あなたを守らなくちゃ」と二人は離れ、おそらく、じゃあ、の言葉だけを残して去る。ここからは、恋人の男性なりの愛の守り方、「あなた(=主人公)」の守り方が見えてくる。愛を守る方法は写真を顔が見えない状態で撮ることで、「あなた(=主人公)」の守り方は別れを告げるということだった。顔が見えなければそのとき何を感じていたかを表わす表情が写真には残らなくなる。二人が抱き合っている姿が余計な感情を含まずに完全な形で保存される。一方、「あなた(=主人公)」を壊さないように守るためには別れが必要だった(それはなぜかわからないけど)。恋人の男性は主人公を複雑な形で愛し、それを守ろうとして、冒頭のような行動に出たのだろう。

 

・主人公の待ち受けが「白日」のジャケット

 単なるkin gnuを匂わせるお遊びなのかもしれないけれど、「白日」が、過去を真っ白にして真っ新に生まれ変わることなんてできず、過去を引き受けて生きていくしかない、というテーマだったことから考えると、ぽっかり空いた穴(過去の影響)を塞ぐ(真っ新に生まれ変わる)のではなく、傷口になる(過去を引き受けて生きていく)という The hole の歌詞は、重要なポイントでは一致しているのだろうなあ。

 

 

 主人公は、自身の穴も、どちらの恋人の穴も、塞ごうとするけどできず、最終的に自分が死んでしまうことで、結果的には恋人の傷口になった。恋人はAメロ辺りで、死んだ主人公を想いながら暮らしていることから、過去を引き受けて生き続けているんだろう。